アイデアの収納箱

心に浮かぶ「もやもや」を言語化したい

日本に「ニンビー(NIMBY)」という言葉を広めたい

西洋発の概念「NIMBY

 

日本発で世界で知られている言葉、概念って、結構あります。

有名なのだと、アニメ、マンガ、ツナミ、カロウシ、ゲイシャ、ニンジャ…

ちなみに「ガラパコス現象」という言葉も、海外産に見えて、実は主に日本でしか使われない言葉です。

あまりイメージの良い言葉ではないものもありますが、日本発の文化や概念が世界に広まるのは、嬉しいことですね。

 

 

もちろん、反対に海外から輸入されて日本で使われるようになった外来語も山ほどあります。

「実は外来語だった!」みたいな特集はよくネット、TV、本、話のネタとして出てきますよね。

たとえば、背広、かっぱ、ズボン、瓦、襦袢、いくら…、切りがないぐらいいっぱいありますね!

参考)TABIPPO.NET「実は日本語だった外来語29選」実は外来語だった日本語20選 | TABIPPO.NET [タビッポ] 最終閲覧: 2018年1月7日

 

 

 

 

上のように、 言葉を通して、新しい文化や考え方を取り入れることができます。

 

今回は、まだあまり日本のメディアや世間一般に使われていない言葉を紹介したいと思います。

 

僕がこの言葉を初めて知った時には、「あ!テレビや新聞でやってるニュース全部これじゃん!」って思って、頭の中がスッキリした記憶があります。

 

その言葉とは、

NIMBY(ニンビー)」

です。

社会問題とか社会運動などに関わる、わりと社会性ある言葉です。

 

意味は簡単に言えば、「必要性は分かるけど、私の家の近くには迷惑施設を作らないで」と主張する人たちのことです。

 

Googleで検索してみると、学術論文や政策に関する勉強会かなんかは登場するのですが、メディアの記事がちっともヒットしなかったので、ここで紹介しようと思いました。あまり一般に普及していないということでしょうね。

といっても、Wikipedia日本語版ページはありました(NIMBY - Wikipedia)

 

 

NIMBY」が生まれた経緯

 

元々、この言葉は1980年代のアメリカで生み出されました。

 

「Not in my backyard」という言葉の頭文字を組み合わせて生まれた言葉(acronym)になります。

 

ジーニアス英和大辞典(大修館)には、

「自分の居住地域にごみ処理施設・原子力発電所などが建設されることに反対する人」

と解説されています。

 

1980年代のアメリカといえば、スリーマイル島原子力発電所事故が問題になった頃ですので、このような言葉が生み出されたというのも納得できます。

スリーマイル島原子力発電所事故が発生したのは、1979年3月28日のことです。

 

 

 

 

考えてみれば「その字の通り」の意味でしょう。

「Not in my backyard」というのは、直訳して「私の裏庭はやめて」という意味です。

つまり、「自分の家の近く、自分の利害に及ぶような場所(裏庭)に、『迷惑施設』を建設しないでほしい」、ということを表現しています。

そりゃ、自分の家の隣にいきなり「ゴミの埋め立て地作ります」って言われて、喜ぶ人はあまりいないはずです。これは極端な例ですが。

 

 

 

空間的な「NIMBY」を非空間的なものに応用する

 

以上のように、言葉の起源としては「ニンビー(NIMBY)」が、建物や施設など空間に関する概念だということが分かっていただけると思います。「私の裏庭はやめて」ですから。

 

そこで、少し論を展開してみます。

 

これは非空間的な社会問題にも拡大して適用できるのではないでしょうか。

簡単にご想像いただけると思います。

 

例えば、すでにコンセンサスが多く得られている例として、「人種差別に関する問題」。

自分の仲の良い友達のなかに、周りから差別されている人種の人がいたら、その人のことを周りと一緒になって差別するでしょうか?むしろ、その特定の人種が差別されている話を聞いて、不快感や嫌悪感を感じませんか?

もちろん、そうであっても歴史的に人種差別が行われていた時代もあったわけですが、これは随分と解消されてきました。

 

黒人に対する差別であれば反対運動、ユダヤ人に対する差別であれば第2次世界大戦、といった痛みを伴った出来事こそが、差別撤廃に向けて一石を投じたことは事実です。

しかし、差別する側の人たちの中に、差別される側の人たちの意見に耳を傾ける、「より彼らに近い人たち」すなわち「ニンビーの人たち」が増えていたことも差別緩和につながっていたはずです。つまり、ニンビーの文脈でいえば、「自分と仲良い人たちを差別するのはやめて」という意識が彼らに芽生えたはずです。「自分の裏庭で差別をしないで」というわけです。

シンドラーのリスト然り、杉原千畝然り

 

もとのNIMBYの使用方法としては、NIMBYの人は「話が通じない」厄介な人というニュアンスで使われてきましたが、このように負の側面だけでなく正の側面もあると言えますね。

 

 

 

この言葉を知っていれば、

 

ニュースキャスター「原子力発電所再稼働に反対する市民団体が…」

あなた「あ!NIMBYの話ね!

 

ニュースキャスター「沖縄の米軍基地の近くで、基地移転反対デモが…」

あなた「あ!NIMBYの話ね!

 

ニュースキャスター「長崎でダム建設に反対する地権者が…」

あなた「あ!NIMBYの話ね!

 

ニュースキャスター「憲法9条を守る会が国会前でデモを…」

あなた「あ!NIMBYの話ね!

 

と、一気に問題関心を向けることができるようになります。「とりあえず関心を向けて、次の議論のステップへ!」というわけです。

(もちろん、概念に抽象化することによって、問題を切り捨ててしまっては意味がないのですが…)

 

 

 

 

NIMBY」概念を知っていれば、他者を配慮できるようになる……はず……

 

この言葉の良いところは、当事者である人々、つまり「ニンビーの人たち」の存在を無視せずに、認めてあげるということにあります。「ニンビー」という言葉を発した時点で、彼らの存在をあなたは認めたことになります。

自分とは直接関係の無い社会問題に対して挑む人々たちの存在を認め、議論をするという行為は、彼らの活動の認知につながります。

 

また、決して彼らの意見の擁護に導くわけでは無いのが、この「ニンビー」という言葉の良いところです。「自分とは無関係の社会問題に見えても、当事者=『ニンビーの人たち』にとっては大きな問題なんだ」と関心を向ける態度が養われます。

そうすれば、賛成反対両者の意見を踏まえた、客観的で深い議論をおこなえます。片方の立場を完全に無視した、無理解・感情的な批判を避けることができます。

 

参考までに、自治体国際化協会のHPには次のように書かれていました。

NIMBYという言葉には非難の意が込められており、施設立地の社会的必要性は認めるとしても自分の近隣には来てほしくないという住民エゴの噴出した状態を指すものであるが、迷惑施設の立地に直面した地域住民グループが示す地域擁護の姿勢や、迷惑施設に反対する運動なども含まれる。

 引用元: 一般社団法人自治体国際化協会「自治体国際化フォーラム 海外事務所特集 特集2:NIMBY ー 米国における公共施設の立地問題」(自治体国際化フォーラム - CLAIR 財団法人自治体国際化協会) 最終閲覧:2018年1月7日

 

利害関係者を整理し、意見の多様性を認めていることが分かりますね。 

 

 

 

 

ぜひ明日から「あ!NIMBYの話ね!」と心でつぶやいて、ニュースの議論を深めていきましょう!

以上、「NIMBY概念の社会学的転換」でした…!なんつって 

 

 

追記(平成30年3月19日)

日経新聞の平成30年3月19日の朝刊1面のコラム「春秋」に、NIMBYの話が出てきてて嬉しくなってしまったのでした。冒頭引用してみます。

 

世の中はNIMBY(ニンビー)だらけである。Not In My Back Yardーー必要性はわかるが、うちの近所には来ないで。そんな矛盾した住民心理をあらわす言葉だ。ごみ処理場や火葬場、福祉施設から原発、基地まで、NIMBYの対象は幅広い。…(以下省略)

 

あ〜めっちゃ説明うまい。さすが新聞記者笑

 

さすが経済新聞なので、保育所・民泊法制の話につなげていっています。なるほどね〜