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イギリスの終戦記念日「Remembrance Day」って?(英国留学①)

(English version - tbc)

[字数:約8000字]

 

こんにちは!現在、イギリスはイングランド北部の中核都市、ニューカッスルに交換留学中の大学4年生ひさしです!

これから不定期でイギリス生活で、見聞きしたこと、考えたことをブログにしていこうと思います!

 

今回は、イギリスの戦争記念日である「Remembrance Day」についてご紹介します!

詳細は本文中にありますが、昨年の11月12日に「Remembrance Sunday」を留学先のニューカッスルで体験することができました。

 

イギリスや欧米圏に住んだことがなければ、なじみ薄いはずのこの記念日は、いったいどのようなものなのでしょうか?

 

■目次
1.「Remembrance Day」とは
2.どんなイベントなの?
  例:Newcastleの場合
3.ポピーの花が象徴
4.日本と比較して考えてみる
4-1.イギリスではWWIIだけじゃなくてWWIも大事
4-2.平和を想うのか、原爆を想うのか。そもそも想わないのか。

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1.「Remembrance Day」とは

イギリスに生活していると、毎年11月11日に「Remembrance Day」という日がやってきます。これは第1次世界大戦の戦闘状態が解除されたことを記念する日です。ただしイギリスでは、行事実施の都合上、最も11月11日に近い日曜日を「Remembrance Sunday」と名付け、その日にイギリス全土の町で式典が執りおこなわれます。

さて時を遡り、1918年11月11日の明朝にドイツと協商国側の代表との間に休戦協定が結ばれました。その協定によれば、戦闘状態が当日(11日)の午前11時を持って終了することとなりました。これが由来となって、当時の王様ジョージ5世が、「戦没者のことを忘れないように」と毎年11月11日を「Remembrance Day」としました。

11月11日は、当然イギリスだけなく、第1次世界大戦に参加した多くの国にとって大事な日ですので、同様の行事が世界各国で行われています。他の多くの国では、「休戦の日(Armistice Day)」という言葉を用いることもあるようです。イギリスの元植民地国から成る「イギリス連邦(Commonwealth of Nations)」では、イギリス同様にこの日を「Remembrance Day」としています。(各国の状況についてはWiki英語版「Armistice Day - Wikipedia」が詳しいです!)

 

2.どんなイベントなの?

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↑「Remembrance Sunday 2017 | The Royal British Legion」より

 

一番有名な、女王をはじめとした王室一族も参加する行事は、ロンドン・ウェストミンスターにある「The Cenontaph」というモニュメント前で行われるものです。「Remembrance Day」自体は必ずしも国民の休日ではないため、「Remembrance Sunday」に開催されます。ウエストミンスター寺院と国会議事堂の間の通りを北上し、パーラメント通りに入ってすぐあります。余談ですが、この「The Cenontaph」を過ぎるとWWIの記念碑等、いくつかのモニュメントが同じ通りにあります。

 

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 ↑夕方に行ったので暗い写真で申し訳ないですが「The Cenotaph」
よく見るとポピーのリースがいっぱい

 

式典は、例年、エリザベス女王をはじめとして多くの人が、ポピーの花のシンボルでできたリースを、「The Cenotaph」に手向けます。今年は、女王の高齢を考慮してか、エリザベス女王ではなく、チャールズ皇太子がリースを手向けたことが話題となりました。「Remembrance Sunday」が終わって、2週間後にロンドンに行く機会があったのですが、まだそのときのリースがたくさん残っていました。

 

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 ↑こんなふうに割と道のど真ん中にあります

 

このロンドンにある「The Cenotaph」は、第1次・第2次世界大戦戦没者記念碑に該当します。ただし、「The」がついている通り、一般名詞としての「Cenotaph」はイギリスの全国各地の町に存在します。僕が暮らしているニューカッスルや、隣町のゲーツシェッドにもあるようです。

 

この「Cenotaph」や戦争記念碑を基点に、全国各地で式典やパレードが執り行われる日こそ、イギリス全国の「Remembrance Sunday」となります。ポイントは、ロンドンの一箇所だけでなく、国中で式典が行われることです。

The British Legionの特設ホームページには"Remembrance Sunday services are also held throughout the UK in local communities. Please check with your local authorities for details."と書いてあります。

 

例:Newcastle upon Tyneの場合

 

左上の写真がまさに式典最中の広場の写真です。この写真を撮った直前に黙祷をおこなっていました。とても見えづらいですが、銅像を囲んで軍人のみなさんや退役軍人の方々が取り囲む様子がみえます。ただなんといっても、その周囲を一般の市民が身動きできないほど集まって見物しています。

 

右上の写真は、式典が終わって30分ほどしてから、広場を撮りに行った写真です。 歩いている年配の方の胸にはポピーの花が見られます。写っている若者と少し対照的に映えます。銅像の周囲には年配の方が取り囲んでいます。

 

下の動画は式典が終わり、現役軍人や退役軍人、ボーイスカウトの少年少女が行進しているところを撮りました。軍楽隊付きの本物のパレードは初めてでした。日本の吹奏楽文化に育った身からすると、「本当の行進曲」を見るのは新鮮ですね。これが「正しい形」なのでしょうけど。

この動画には映っていませんが、このあとバグパイプを演奏しながら行進する方も出てきます。友達曰く、バグパイプは出兵のときや誰かを弔う場面で、イギリスで一般的に演奏されるそうです。ただのスコットランドの民族楽器ではないのですね。

 

3.ポピーの花が象徴

 

 ↑こんな感じのポピー風ワッペン

 

 友達のChris君によれば、「フランスの戦地の塹壕戦の跡地に咲くポピーが、戦死者の血の赤色を表している」そうです。「亡くなった兵士たちのことを忘れないように」、「Remembrance Day」ではポピーの形をしたワッペンのようなものを胸に着用します。

 

「Remembrance Sunday」の前日には、道端にときどき若い軍人さんかチャリティーの若者のような方が、そのポピーの花を模したワッペンを販売していて、購入することができました。

 

「The Royal British Legion」(イギリス退役軍人会?)のネットショップでは、ポピーグッズがたくさん売ってますね。割とセンスいい。

 

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(Poppy Shop UK - The Royal British Legion Online Charity Shop and Gift Shopより)

 

ググってみれば、元は第1次世界大戦に従軍したカナダの物理学者、ジョン・マクレー(John McCrae)が書いた詩に、このポピーは由来するようです(3)。詩「フランダースの戦場にて」(”In Flanders Fields”)の最後の1節はこうです。

 

かたきとのいざこざの話だ

あなたに向けて、地に堕ちゆく私たちの手から

松明を投げよう

これを受け取って、高く掲げてくれ

仮に汝が死にゆく我らの誠意を守らぬ、というのなら

我らは安眠できない

フランダースの地にポピーは育てども

[(3)より筆者翻訳。]

 

この詩をアメリカ、ジョージア大学のモイナ・ミッチェル(Moina Michael)教授が読んで、式典の際にポピーをシンボルとして着用することにしたのだとか。この慣習がヨーロッパやイギリス連邦の国々に瞬く間に広がりました。1921年には、初めて「生」のポピーが式典で着用されました。

英語圏の情報拡散力はハンパないですね!

 

4.日本と比較して考えてみる

「Remembrance Day」自体の紹介からは少し脱線しますが、日本の「戦争終結を記念するイベント」と比較して考えてみようと思います。

 

4-1.イギリスではWWIIだけじゃなくてWWIも大事

イギリスで終戦記念日といえば、第1次世界大戦終結を表す「Remembrance Day」のことです。対照的に日本では終戦記念日といえば、間違いなく第2次世界大戦が終結した8月15日のことですよね。ましてや終戦記念日直前の「原爆の日」、広島・長崎に原爆が投下された8月6日・9日が強調されているということもあり、第1次世界大戦よりも第2次世界大戦が強調されるのは当たり前でしょう。実際、日本の戦争での被害はWWIよりもWWIIの方が甚大であったことを考えれば納得で、被害割合が多かったのです。2国の戦争被害を比較してみれば次のようになります。

 

■World War I1

負傷者 兵士死亡者 民間死亡者 死亡者合計 人口対死亡者割合(%)
日本 907 300 - 300 0.1
イギリス 1,675,000 744,000 123,829 867,829 1.91

■World War II(5)

日本 4,000,000 1,300,0002 672,000 1,972,000 2.74
イギリス 277,077 264,443 92,6733 357,000 0.744

1 全てWikipedia英語版「World War I casualties」(https://en.wikipedia.org/wiki/World_War_I_casualties、平成29年12月7日閲覧)を参照。

2 Based on an estimate of 1,600,000 total military deaths on the assumption that about half of those listed as missing in Soviet territory in 1949 were dead. About 300,000 of these probably resulted from causes not related to battle.

3 This figure comprises 60,595 killed in aerial bombardment, 30,248 in the merchant marine service, 624 in women’s auxiliary services, and 1,206 in the Home Guard.

4 当時の人口は、Wikipedia英語版「World War II casualties」(https://en.wikipedia.org/wiki/World_War_II_casualties、平成29年12月7日閲覧)を参考に筆者算出。Wikipediaさん優秀…。

 

第2次世界大戦初期にすぐ交戦状態に入らなかったために、イギリスは大陸での交戦期間もWWIよりWWIIは比較的短く、甚大な被害を被る事態には陥らなかったようです。…と高校の世界史で習った気がします笑

 

イギリスでは第2次世界大戦も大事ですが、いわゆる「終戦記念日」は第1次世界大戦の終結日なんです。

 

4-2.平和を想うのか、原爆を想うのか。そもそも想わないのか。

休戦記念日を国中で祝すイギリスと比較して、日本では「休戦記念日を祝うという行為」が浸透していないように感じます。 というのも、日本では8月15日の終戦記念日よりも、原爆が広島・長崎に投下された8月6日8日の方が、注目されているように僕は感じるからです。

終戦記念日昭和天皇玉音放送をおこなった8月15日にするか、連合国側の降伏文書に日本が調印した9月2日とするか、という議論があったりします。(国際的には9月2日だそう。ナショナルな議論とグローバルな議論では、記念日も異なりうるのですね。)

 

 

 「黙祷」

イギリスのRemembrance Sundayでは、第1次世界大戦の休戦協定が発効した午前11時ちょうどに黙祷を行います。黙祷という行為は、行う人全員に一人孤独に思考をめぐらせることを強います。それゆえ、黙祷の慣習は、平和や戦争に対して思考をめぐらせる経験を生み、後世に対して戦争の記憶を受け継ぐ契機になるのではないか、と考えます。この「黙祷」という慣習から日英の平和記念日を考えてみます。

ちなみに、僕はその瞬間は歩きながら「黙祷」していました。まだRemembrance Dayのことをよく分かっていなかったので笑 

 

ニューカッスルでおこなわれた式典では、イギリス地方の中核都市であっても、大型ショッピングセンターのど真ん中の広場に入りきれないほどの人が集まっていました。日本の地方都市でこれだけ大勢の人が黙祷を捧げているという光景は、日本では考えられないかなと思います。もしあっても、一般的な市街地においては、少し不気味な光景に映ってしまうでしょう。少なくとも僕はこれまで日本に住んでいて、大勢の人が集って、平和への祈りを捧げるという場面に生で遭遇したことがなかったので、最初目にした時にとても驚きました。ましてやイギリスで「これを各地でやっているのか」と思うと、イギリス国内の終戦への祈りの捧げ方は広汎かつ大規模です。 

 

日本では、広島に原爆が投下された8月6日の朝午前8時15分17秒に黙祷を捧げる、というのが1番メジャーな「黙祷」ではないでしょうか。毎年、NHKが「広島平和記念式典」をテレビで中継しているのを見て、一緒に黙祷するという人もいらっしゃると思います。もちろん、原爆投下の悲劇を反省することによって平和を祈るということは、もちろん為すべことですし、「平和への祈りを捧げる」という点では、イギリスのRemembrance Dayの目的と軌を一にしています。けれども、昨年はオバマ大統領の広島訪問のこともあり、8月15日の「終戦の日」よりも、8月6日の「原爆の日」の方が報道の量や世間での取り組みにおいて強調されているような気がします。

 

この日英の「黙祷」の違いから、「8月15日に戦争・平和全体に向けて思いを馳せる」ということをもっと日本人はしても良いのではないかと思います。(僕が例年、「終戦の日」に敬虔に平和を祈ってこなかっただけかもしれませんが…。たとえば、甲子園では毎年、「終戦の日」に黙祷を捧げている。)イギリスでは各地で終戦記念式典が開催されるのに対し、日本では式典開催のみならず報道や意識の面でも散発的に思われます。日本においては、本来「戦争」という非平和的イベントを反省する、タイミングが不足しているのではないでしょうか。 

補足として、たまたま自分が住んでいる日本の地域が単身世帯や核家族の多い地域なので、平和記念式典へ向かう老年の方を見る機会が少なかったのかもしれません。また、日本の「原爆の日」および「終戦記念日」は、8月中であるために、義務教育の間に子どもたちにその意味を伝えようとしても、夏休み中であるために、世代間で意味の共有がなされにくいのではないか、とも思いました。もちろんイギリスでは、公教育機関の学期中に「Remembrance Day」が発生します。

ちなみに小学校学習指導要領を見ると、「第2次世界大戦」や「平和な世界の実現」といった言葉が出てくるので、一応小学校で平和的な考えを学ぶことになっているようです(8)。ただ「これらの記念日について小学生に教えなければならない」という明確な記述はさすがに存在しません。

 

 

「TV放送」

また「TV放送」という面からも日英比較をしてみます。日本では、NHK総合が「原爆の日」の広島・長崎両式典、「終戦の日」の「全国戦没者追悼式」を中継していますが、広島の平和記念式典は38分間、後者については15分間程度(2017年は17分)と、とても短いです。長崎の「平和記念式典」については、NHKによって中継されていなかった頃もあった(1999年まで)と嘆く声もありました(9)

 

BBCはTVの全国放送で、日本では行われない記念式典全体の生中継はおろか、その日の夜には「退役軍人中心のパレード」なるものを永遠に放映していました。ですから「BBCにチャンネルを回せば、嫌が応にも『Remembrance Day』に思いを馳せざるを得ないな笑」と思います。これは日本と同様ですが、たくさんの戦争関連のドキュメンタリー番組が放送されます。「TV放送」という観点では、イギリスのほうが戦争に関してはるかに多くの報道量があると言えるでしょう。

ちゃんとしたメディアの比較はおこなっていません。誰か調べて。「自分でやれよ」ですね、すいません。

この辺のTV、新聞の戦争報道の比較とか、どっかの研究でありそうですね 。

 

靖国神社参拝」とか国のリーダーがいつも問題になりますけど、「無辜な戦没者を弔い、平和を祈る」という意味では、国のリーダーとして当たり前なのかな、と思わなくもなかったり。もちろん「戦犯者」の扱いの問題になってくるので、これは別の問題ですかね。 細かい議論は置いといて、とりあえず「平和への祈りを捧げること」を、日本でももう少し意識しても良いのかなと感じます。日本では、戦争・平和そのものに対して、思索を深める時間が足りていないのではないでしょうか。

 

ご覧いただきありがとうございました。

 

参考URL

(1)Wikipedia 英語版 「Remembrance Day」https://en.m.wikipedia.org/wiki/Remembrance_Day 、平成29年11月21日閲覧。

(2)Wikipedia 英語版 「Armistice Day」https://en.m.wikipedia.org/wiki/Armistice_Day、平成29年11月21日閲覧。

(3)Wikipedia 英語版「John McCrae」https://en.m.wikipedia.org/wiki/John_McCrae、平成29年11月21日閲覧。

(4)Encyclopaedia Britannica「World War I - Killed, wounded and missing」https://www.britannica.com/event/World-War-I/Killed-wounded-and-missing、平成29年12月7日閲覧。

(5)Encyclopaedia Britannica「World War II - Costs of the war」https://www.britannica.com/event/World-War-II/Hiroshima-and-Nagasaki#toc53607、平成29年12月7日閲覧。

(6)Business Insider This Chart Shows「The Astounding Devastation Of World War II」http://www.businessinsider.com/percentage-of-countries-who-died-during-wwii-2014-5?IR=T、平成29年12月7日閲覧。

(7)The National World War II Museum | New Orleans「Research Starters: Worldwide Deaths in World War II」https://www.nationalww2museum.org/students-teachers/student-resources/research-starters/research-starters-worldwide-deaths-world-war、平成29年12月7日閲覧。(*ぜひその他の国のcasualtiesもご覧ください。)

(8)文部科学省「小学校学習指導要領」http://www.mext.go.jp/component/a_menu/education/micro_detail/__icsFiles/afieldfile/2017/05/12/1384661_4_2.pdf、平成29年12月7日閲覧。

(9)Yahooブログ「【閉会中審査】NHKが中継をしないのは納得できない(『行き過ぎ』を警戒か?)」https://blogs.yahoo.co.jp/mochimoma/21703794.html、平成29年11月21日閲覧。